魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 その悔しそうな表情からは、彼女も同行したいと無理を言ってスレイバート様に突っぱねられる、そんなシーンが想像できた。私は柄にもなく、努めて明るい表情で彼女の両手を握りしめる。

「……大丈夫。スレイバート様は誰にも負けないわ。この間だって、数百体の魔物とひとりで戦ってみせたもの。ベルージ王国が、どんな手段で攻めて来たって、涼しい顔で跳ね返してみせるわよ、きっと!」

 すると、テレサは逆に涙汲んで、子どものように私の胸の下に潜り込んでしまった。

「ごめんなさい、お姉様だって怖いって分かっているのに……。でも、どうしても嫌な想像ばかりが、湧いてきてしまって。なんで……どうしてお兄様ばっかり、大変な思いをしなければならないの……!」

 無理もないことだ。ずっと苦しむスレイバート様を側で見守ってきたテレサの心痛は察するに余りある。せっかく呪いが解け、この先の長い未来を一緒に目指していけることになったというのに、今度は先行きの見えない戦場に大切な兄を送り出さなければならない。その不安と絶望は、きっと私の抱えるものよりもずっと大きい。

 けれど……それでなにかを変えることはできないし、スレイバート様もきっと彼女が悩み苦しむことを望んではいない。ならば、私が彼に代わってテレサにしてあげられることはないだろうか。彼女の側にいて言葉をかけ、支えてあげること以外の……。
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