魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
(そうだ……!)

 テレサの、スレイバート様の無事を願う想いを、なんらかの形で表してあげることはできないだろうか。そんな思いから、私はしゃくりあげるテレサの背中を撫でながら、彼女に語りかげる。

「ねえ、テレサ。スレイバート様が大変な分、私たちもなにかで頑張りましょうよ。一緒に戦うことはできなくとも、きっとなにか……戦地に赴く彼らの支えになれることがあるはず」

 私は、涙塗れの顔を覆うテレサの両肩を掴むと、安心させるように笑いかける。

「きっとたくさんの人たちが傷付いて帰ってくる、それらをもとの暮らしに戻れるよう手伝ってあげることも私たちの役目だけれど……。でも、その前に。せめてこの地を守ろうと立ち上がってくれた皆を感謝と敬意をもって送り出したいの。なにか、いい方法はない?」

 すると、テレサは頬を濡らしたまま、しばらく視線を俯けた後、私にボースウィン領に古来から伝わる風習を教えてくれた。

「この厳しい北の地では、戦地で食料が不足することも少なくありません。なので、古くから女たちは、家族や恋人にもしなにかあった時でも生き残れるよう、冬場でも凍らないくらい固く焼いたビスケットを持たせたそうです」
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