魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
「私もお兄様のように、自らの責任を果たします。ボースウィン公爵家のひとり娘として、この領地の皆を不安にさせないために。だからお姉様……私が逃げないよう、見守っていてくれますか?」
「うん。だって、あなたも私の大事な家族のひとりだから」

 私がそう言うと、テレサは、「……嬉しい。でも、そこははっきり妹だって言って欲しかったです」と軽く頬を膨らましてみせた。でもその後表情は晴れ、私たちは連れ立って城を歩き始めた。城内で働く、心細そうな女性たちに声を掛けてゆく。
 すると、思いのほか戦に赴く大切な人のために贈り物をしたいという人は多く、たくさんの人手が集まった。

 どうせ男たちは戦の準備にかかりきりなのだ。この際ちょっとくらいお城の手入れを後回しにしたって構わないだろう。私たちは公爵家の厨房に押しかけるとやや強引に調理スペースを空けてもらい、想いを込めて生地を()ね、ビスケットを焼き始める。

 そうして日暮れ時には、甘くて香ばしいいい匂いが城全体を覆い、出征の準備を進める兵士たちの鼻をひくつかせた。 
< 965 / 1,187 >

この作品をシェア

pagetop