魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 整然とした室内にちらほらと男性の趣味にはそぐわないようなものがあるのは、小さな頃からのテレサの贈り物を大事にとっているせいか。そう思うとつい微笑ましさが口元に浮かんでしまう。

「今日は……こっちでいいか」

 ソファにでも座るのかと思ったが、彼が指差したのは巨大な天蓋付きのベッドだった。
 そう言えば以前ここで彼と――と、呪いにまつわるあれやこれやを思い出しかけた私は、ぶんぶんと首を振って浮かんだシーンを追いやり、勇気を出して彼の隣に座り込んだ。尻込んで時間を無駄にしている暇はない。明日からは、彼はここにいないのだから。

 スレイバート様は後ろに両手をついて天井を見上げると、くくっと笑う。

「にしても、信じられねーよな。お前が来てからたった半年かそこらしか経ってねーんだぜ」
「そうですね……」

 私も同じように肩を並べ、ぼんやりと上を向いて力を抜いた。

 こうしていると色々なことを思い出す。よかったことも、大変だったこともたくさんありすぎて……そのサイクルの速さに、すべては思い出せないくらいだ。
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