魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 元々シンプルなお菓子だし、それ自体は砂糖や小麦粉、バターといった簡単な材料だけで作ることができる。色々な型を使ったり、串で開けた穴で字を書いてみたり……中にはシュガーペーストやドライフルーツなどをトッピングする人もいて、思い思いの品を作るのはそれはもう楽しい体験だった。

 その際に、私はひとつあることを思いついた。

(呪いが塩に込められたのなら、逆のこともできるんじゃないかしら……?)

 ゲルシュトナー領での経験を踏まえてそのことを考え付くと、私はテレサに魔力を借り、焼き上がったビスケットたちに生命力を受け渡す要領で込めていった。どうか、辛い時にも、これを食べた人が元気を取り戻せますよう――帰るべき場所で待っている、大切な人たちの顔を思い浮かべられますように、と……。

 それが、ちゃんと魔法として効力を発揮するのかは分からない。でも、少しでも楽しい日々のことを思い出し、生き抜く力になることを願って……。

 最後に私たちは、スレイバート様に渡す分のビスケットを自分たちで象ると焼き、湿気らないように瓶底に詰めたお茶の葉の上に丁寧に重ねていった。テレサは時間ぴったり焼いた綺麗な狐色。私のはちょっと焼き過ぎのこんがりした色になってしまったけれど、どちらも、想いだけは等量に籠っているはず――。
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