魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
 ヴェロニカの、氷のような無機質な視線に震えが止まらない。

 私が誰かが傷付くところを見たくないのは、私自身にとって大切な人たちが苦しむことに耐えられないからだ。それは当たり前のことだと思うのに……なぜか今、彼女の前で自信を持って口に出すことができない……。

「ふふふ……まあ、そんなことはどうでもいいわ。でも……もし理由を知りたいというのならば、ひとりで王都に来ることね」

 そんな私の様子をにたにたと楽しそうに笑う彼女がぴんと指で弾いたのは、一枚の黒い封筒。

「ふふふ……読まないで捨てるという選択肢もあるだろうし、一応忠告しておくわね。もし従わないのであれば、家族や仲間を大切にするあなたのような人間にとって、とても耐えられない惨事を起こしてあげることにしましょう。それでもいいなら、好きにするがいい」

 それがこちらの足元に滑り込むやいなや、彼女の身体が爪先から黒い煙へと変じていく。

「待って……!」

 彼女をどう説得したものか分からないが、私は前に飛び出し、必死に手を伸ばそうとした。だが、それよりも先に彼女の身体は霧となって崩れ、窓の外へと吸い込まれて行く。
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