魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
(あ……)

 広い街の入り組んだ通りを何度も曲がる途中に、私は足を止める。

 この区画だけには覚えがあった。かつて私が住んでいた……ハクスリンゲン家の屋敷が建っている場所。
 いいや、もうおそらくそこは売り渡されて人手に渡っているから、違う人物の名義になっているはず。敷地を囲む鉄柵の隙間から覗いてみると、屋敷に住まう知らない人たちの姿が見えた。

(できるなら……お母さんの肖像画だけでも取り戻したかったけれど)

 もうそれもおそらく、売られたか捨てられたかして存在していないだろう。そんなことを考えて、私は怪しまれない内に囲いから手を離した。

 少しだけ後ろ髪引かれる思いはあったけれど、もう私が帰る場所は他にある……そう言い聞かせ、かつての生家に別れを告げた。

(お母さんのお墓の場所も聞いておけばよかったかな)

 うんと幼い頃には行ったことがあったのかも知れないが、物心ついたころには父はもうあんな感じだったし、教えてもらうことはできていない。スレイバート様も尋ねたというから街のどこかにはあるはずだし、すべてが終わったら彼と一緒に報告に行こう。
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