明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「……久世の許婚が、私のこと……あの。組み伏せようとして」

 澪は言い淀んだ。嫌いな男に襲われた記憶は一度死んでも心を押し潰してくる。思い出して息があがった。

「白玉が……飛びかかってくれたの……でも、腕にしがみついたあの子を、壁に」
「やめろ」

 桐吾はあわてて止めた。青ざめる澪をのぞき込む。肩に手をふれかけて、ギクリとした。

(危ない……押し倒さなくてよかった!)

 無理やりそんなことをすれば澪を傷つけた男と同じところに成り下がってしまう。
 桐吾は澪とやや距離を保ったまま、素知らぬ顔でまとめにかかった。

「嫌な話をさせて悪かった。白玉はつまり澪のために怒り、戦ってくれたんだな。その気持ちのままで死んだから……」
「〈怒り〉で祟った、のね」

 寂しげに澪がつぶやく。大好きな白玉にそんな思いをさせてしまった責任を感じたのだ。

「私、駄目な飼い主だったわ……」
「違う。それだけ可愛がっていたんだろう? 白玉は気持ちを返そうとしただけだ」

 桐吾の言葉はなぐさめではあるが、本気だった。
 白玉と、冬悟へ向けた澪の愛。それはとても大きく深かったに違いない。失って死を選ぶほどに。

(俺は……その代わりになれるほどの男か? すぐに澪を欲しがってしまうようなゲスのくせに)

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