明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 記憶の中の村の道と今。重ねて考えながら澪は歩いていった。意外と区画はそのままで、迷うことはない。

「あ――」

 確かに池はあった。だがその周囲にはぐるりと金網がめぐらされている。それに岸も改修工事済だ。澪はぐるりとあたりを見回し、道と池とを見比べた。場所は間違っていないと思う。だけど。

「こんな――」

 変わり果てたふるさとのようすに澪は言葉もなかった。
 身を投げた時のままだったらそれはそれでつらいだろう。だがまったくおもかげを見出せないのも予想外。立ち尽くす澪がいたましくて桐吾はなんとかフォローしようとした。

「フェンスは新しい。人が入れないようにしたのは最近だろうな。こういうところは子どもが落ちたりするから」
「そう――そうね。私みたいに飛び込む人だっていたんだし」

 自虐的なことを言って微笑んでみせた澪はフラフラとフェンスにそって歩く。ついて行った桐吾は池のほとりに木製の看板があるのに気づいた。

「あれは……〈澪姫様の伝説〉とあるぞ」
「え?」

 二人でフェンス越しにのぞき込んだ。古い看板は、下手すると昭和の頃のものかもしれない。ところどころ消え気味の文字を読んだ。

 ――当地名主の娘、澪は良人(おっと)の素行悪しを気に病み愛猫と共にこの池にて命を断った。身をもって諫めた澪に良人は行いを改めたという。この池はその後、日照りの年も枯れることなく村を守り続けたため人々は彼女を澪姫様と称してあがめ、祠を建てて祀った――。

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