明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「なんか話がちがーう! 夫なんかじゃなかったもん!」

 記された内容に本人が異議を申し立てた。ぷぅ、と頬をふくらませて不満げだ。夫のために行動した良妻みたいに書かれているのは、とっても不本意。桐吾は笑いをこらえる。

「ここは久世のお膝元だ。町の実力者を悪しざまに言いにくくてギリギリの表現をしたんだろうな。うちの文書にはもっとあからさまに書いてあったぞ」
うちの文書(・・・・・)?」
「ああ。水無月家に伝わってる話を曾祖父がまとめたものだ。郷土史家みたいなものだったんだと思う。会ったことはない人だが」

 それを読んだことがあって、桐吾は澪姫伝説も祠の存在も知っていたのだ。

「あれがなきゃ澪の祠に行ってみようなんてしなかった。ひい爺さまのおかげさ」
「へえ……その方がいなければ私は桐吾さんに会えなかったのね」

 出会ったことを素直に感謝する澪の言葉で桐吾は心を強くする。澪の過去と向き合うのは桐吾にとっても試練だった。

(俺は澪が欲しい。だが澪の方はどう思っているんだか。契約夫婦なのはわりと気に入ってくれているようだが、死ぬほどの気持ちを交わした相手のことに想いを馳せたら――)

 不安を隠すように看板に向き直った。澪が生き、そして死んだ事跡がそこに記されている。やや捏造されてはいるが。

「この池、澪が守っていると思われていたんだな。澪姫なんて呼ばれるようになったわけがわかった」
「……うふふ。ちょっと恥ずかしいかも」

 人々が澪を想ってくれていた証拠の碑文。澪は照れ笑いした。
 澪は死んでからも峰ヶ根のみんなに愛されていたのだ。

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