明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「どうって……澪の物だぞ。持って帰ろう」
「でも使わないと思うし。私もう髪は結わないわよ」

 澪はさらさらした髪を風がなぶるにまかせて微笑んだ。
 着物と日本髪なんて、桐吾といるなら必要ない。今日のワンピースとショールを手放すなんて嫌だった。真っ直ぐに桐吾を見つめる。

 なんだろう、身の内から風が生まれるような気がした。胸の中にポウッとあたたかいものがある。
 冬悟から受け取った恋を思い出し、村人たちは澪を憐れんでくれたと知り、今の澪はとても幸せだ。
 だけど強く願ったのは「これから」のこと。

(こうして桐吾さんの隣にいさせて)

 そんな思いをこめて桐吾を見上げる。だが桐吾は首を横に振った。

「だからって捨てて行けない。澪がいらないと言うなら俺が保管しておこう。澪が生きていた――証になる品物だ」

 桐吾は静かに箱を閉じた。使わないとしても放置して帰るなどもってのほかだ。

(――ひと目見るなり泣いたくせに)

 大切にしていた装身具。櫛を贈るというのは愛の告白……というのが澪の生きていた頃にそうだったのか桐吾は知らない。だがいつも身に着けていたのなら冬悟との思い出の品に違いないのだ。不要だと澪が言う理由はわからないが、それに従う気は桐吾になかった。

「みゃお」
「ん? 白玉も持っていくことに賛成か」
「ふみゅ」

 援軍を得て桐吾はかすかに笑む。澪に目をやると困ったような笑顔だった。

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