明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「――うん。そうね、ありがとう」
「いや」

 澪が小箱にそっと視線をやる。それだけで本当は大事に思っているのが伝わった。その姿に桐吾は奇妙な懐かしさをおぼえた。

(――? そういえばこの感覚、澪に会ったばかりの頃にしばしば)

 不思議と近しいような、目が離せなくなるような気持ち。そのおかげで得体の知れない祟り神などに夫婦契約を持ちかけたのだ。今もまた胸が締めつけられる。

「あ」

 一陣の風が吹いた。澪のショールが飛びそうになる。押さえて羽織り直した肩を桐吾はそっと抱いた。

「車に戻ろう。次は駒木野で見てもらいたいものがある」
「――ええ」

 二人は祠に背を向け歩き出す。その足もとには何故か満足げな白玉もついてきていた。

  ✿

 桐吾が言った「見てもらいたいもの」、それは水無月家文書のことだった。
 到着したのは町立図書館。曾祖父が書きつづった文書が寄贈されている。原本は書庫にあるが、コピーが郷土資料コーナーで閲覧可能になっていた。

「まあ読む人もほとんどいやしないが」

 桐吾は苦笑してそのファイルを取り出した。おかげでこうしてすぐ手に取れる。
 閲覧席の隅で二人は並んで座った。猫の姿の白玉は車で留守番だ。館内の近くには数人の高齢者が陣取っているだけ。窓からやわらかい秋の陽が差し、誰もろくに動かない。ゆったりと時が流れていて、古い紙とインクの匂いが妙に落ち着く。

「これは――水無月の家系図?」
「そう。それが見たかったんだ」

 巻末に近いページ。桐吾がめくって示したところには人の名前が並び、線でつながれていた。上からたどっていく澪の指が途中で止まる。

「冬悟さん――」
「あったな」

 桐吾は深く息を吐いた。
 以前は読み飛ばしていたページ。先祖の名前など――と思ったのだが、まさかここにきて確かめたくなるなんて。

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