明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 澪の吐息もふるえた。
 冬悟の存在が記録に残っているのか。もちろん澪は冬悟のことを知っている。でも。

「あの人、いたのね……」

 もう澪しか覚えていない人なのに、名が記されているのがなんだか不思議だった。

「澪のことだって言い伝えられているだろう。この本にもちゃんと書かれてる。読むか?」
「あ、待って。まだ」

 澪は自分の知るあたりの家系図をじっと見つめた。
 冬悟の名は父親のすぐ下で筆頭として書かれている。なのにそこからは何もつながっていないのが哀しかった。冬悟が死ななければ、その子を自分が生むかもしれなかったのに。唇をかむ。
 動揺をごまかし、冬悟の隣から続く線をたどった。

「やっぱり秋夜(しゅうや)さんが家を継いだんだわ。すぐ下の弟なの」
「そうか」

 ポツリと澪が言うのを聞きながら桐吾も感慨にひたっていた。澪はその弟とも顔を合わせ、話したことがあるに違いない。自分の先祖を知る人が隣にいるなど奇妙なことだ。

「でも桐吾さんは載ってない」
「これが書かれた時に俺は生まれてないからな。名前からすると、秋夜という人の孫にあたるのが執筆者。俺の曾祖父だ」

 数えてみればたった五代。
 過ぎ去っていたはずの澪の時代が、この記述で明確に桐吾とつながった。二人は視線を交わしたが――互いがそれをどう感じているのかは、よくわからなかった。

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