明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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「――本当に寄らなくてよかったのか?」
運転しながら念を押され、澪は笑って肩をすくめてみせた。
「いいの。遅くなっちゃうでしょ」
「だが……」
話題になっているのは冬悟が葬られた寺に立ち寄らなかったことについて。
池と祠と図書館をめぐり、現地の山並みや川筋について視察していたら時間がなくなってしまったのだ。晩秋の日はすぐ沈む。
桐吾は最後にお参りをと考えていた。でも夕暮れが近づく空を見て澪は断った。だって不安だったのだ。
(――今日は行きたくない。私、うっかり泣いちゃうかも。そんなことになったら桐吾さんが心配するし)
冬悟がいるのに契約妻にしたのを気にした桐吾。不愛想だけどやさしい人が、また自分を責めてしまうかもしれない。
だから時間を言い訳にしたのだが、実際帰路についたらすぐに夜の帳が降りてきた。
「こんなに暗くなってからのお墓参りなんて嫌よ。怖いもの」
「怖いって、自分が祟り神のくせに」
「あ、そうだった。でもお墓なんてなんとなく……ねえ?」
「子どもだな」
桐吾が軽口を叩いてくれて澪はホッとした。最近桐吾との間に薄い壁があるような気がしていたのだ。
桐吾は何かと澪に手をふれる。照れて逃げようとすると強引に捕まえることも多かった。でも頭をなでられるのは澪も嫌じゃないし、そんな時の桐吾は楽しげだった。
(桐吾さんなら、なでられてもいい)
だがこの数日、そういう仕草が減っていた。今日にいたっては泣いてしまっても抱きしめてこなかったし、手をつないでも指をからめてこないし。