明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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――――ぽすん。
暗い中、何かやわらかい物の上に澪は座っていた。とてもなじんだ感覚。
(ここは――)
じじ、と軽いモーター音。夜なのにカーテンが開けっぱなしだ。部屋の電気も点いていない。
澪がいるのはいつもの桐吾の部屋。座っているのはソファだった。
「あれ。いきなり……」
窓から入る街灯りで、動くぶんには問題ない。立ち上がった澪は照明のスイッチを入れカーテンを閉めた。
「車に乗ってたのにな」
力を使ってみろと白玉に言われ、やってみた。どうやらできたようだ。
(……ここが、私の帰る家。いちばん行きたい場所)
白玉に言われて無意識に思い浮かべたのは桐吾と暮らす、この部屋だった。
(私そんなに桐吾さんのこと、好きになっていたのね)
そう思ったら泣けてきた。ベソをかいてしまい、笑いながら涙を拭く。
立ったまま誰もいない部屋を見回した。桐吾と、澪と、白玉の匂いがする。
「ふふ」
嬉しくなって澪は笑った。
でも桐吾はどうしているか心配だ。澪はどこに消えたと驚かせただろうか。
「……怒られるかな。ええとじゃあ、この場合ご飯を作るか、お風呂を沸かすか」
ひと足先に帰ってきたのだから、桐吾が喜ぶことをしておいてあげたい。怒られそうになったらそれでごまかす手もあるし。
たぶん料理よりも風呂掃除の方がマシな出来になると判断した澪はさっそく風呂場に向かった。