明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
  ✿

「――澪ッ!!」

 乱暴に玄関を開けた桐吾は室内の灯りを見て崩れ落ちそうになった。猫の姿に戻った白玉を床におろすとリビングに駆け込む。台所にいた澪が満面の笑みで迎えてくれた。

「おかえりなさい――よかった、ちゃんと帰ってきてくれて」
「澪、おまえ――」
「ごめんなさい、私いきなり消えちゃったのよね?」

 桐吾目線だとどうだったのか想像し、澪は申し訳なさそうにした。その体を有無を言わせず桐吾は抱き寄せる。これまでにない激しさできつく腕を回され、澪は目をみはった。

「――焦った」

 桐吾の声がふるえていた。澪は遠慮がちに腕を伸ばす。桐吾の背をそっと抱き返した。

「桐、吾さ――」
「どこに消えたかと思った。澪」
「はい」
「澪」
「ぁんっ」

 繰り返し名を呼ぶ桐吾は、澪の体を確かめる。背をなぞられた澪がビクッと反応しようとおかまいなしだ。ちゃんと澪がそこにいると信じたかった。
 だって、もう普通の人間として扱っていた澪。なのにこんな超常現象をやらかすなんて。
 
「あ、の……くすぐったい」
「澪はなんともなかったのか」

 やっと少し体を離した桐吾は不安げに澪の顔をのぞきこんだ。

「うん、別に」
「車から消えて、すぐここに?」
「……たぶん」
「ああ、時間は見てないよな。それにしても」
「うるさいのう!」

 あきれ返った白玉の声がした。見ればまた人間になっている。そもそもマンションの駐車場からエレベーターに乗る間、住民と会ってはいけないので猫になっていただけだ。

「我は言うたよな? 澪ならばきっとこの部屋におると」
「そうだが……」
「澪が帰りたい場所など、ここしかあるまい」

< 131 / 177 >

この作品をシェア

pagetop