明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 澪が消えた助手席を見つめ蒼白になった桐吾に、「さっさと帰れ」と白玉は言ったのだ。きっとマンションに戻っているはずだからと。
 だが、そういうことじゃないと桐吾は言いたい。澪の背中をパシパシしながら訴えた。

「こんなの生身の人間だと思うだろう? それが消えたり出たり、納得できるわけあるか!」
「その気持ちはわからんでもない」

 生身の猫だったり人間だったり忙しい白玉は真面目くさった顔をした。

「我ながら、質量保存の法則とかどこにいったと思っておる。だが世の中には理屈で計れないことがあるのじゃ」
「祟り猫が開き直るのはやめろ」

 普段より桐吾の口が悪かった。本当に動転しているらしい。澪は微笑んで桐吾の胸にポスンと頭突きした。

「うふふ」
「……なんだ」
「ありがとう。そんなに心配してくれたのね。嬉しい」
「いや……そりゃ、な」

 胸に押しつけられた澪の頭をポンポンなで、桐吾は少し落ち着いた。どうやら澪は変わらずここに存在するようだ。しばらくぶりに腕におさまった澪の方もなんだか安堵する。
 やっと桐吾が黙ったので白玉は伸びをした。一日出掛けていて疲れた。

「いいからさっさと飯にしろ。澪、我のおかげで力に目覚めたのだから今日はアレがよい。チューブタイプの例のブツにせい!」
「まあ白玉、駄目よアレはおやつでしょ! ちゃんと猫缶も食べなさい!」

 澪が顔を上げ言い返す。そして、あ、と桐吾を振り向いた。

「お風呂わいてますよ桐吾さん。ご飯は今、炊いてるところ!」

 澪の瞳がほめてもらいたそうにキラキラしている。いきなり生活感が戻ってきて、桐吾は乾いた笑いをもらした。


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