明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「……なんだろうな」
「しかしお断りするわけには」
「ああもちろん、ちゃんと話す。設定してくれるか」
「わかりました」

 一礼して業務に戻っていく華蓮を見送りながら、桐吾は向日葵のことを思い出していた。見合いを断る時に一度会っただけのゴージャス美人。

(悪い人間ではないんだが……確固たる信念がありすぎる感じが、少々扱いづらくてな)

 ビジネスの相手としても手強いと思う。さらに見合いして結婚となれば……契約夫婦だったとしても向日葵が家にいるのはくつろげないと思った。個人の感想だが。

(澪はどうしているかな)

 現在の〈妻〉のことを考えた。
 桐吾にとって好ましい女性というと――やはり澪。それは澪がああいうほんわかタイプだから、なのだろうか。それとも澪ならばガツンと強く出ても魅力的に感じるのか――。

(キリッと意見を言った澪も……よかった)

 そんな結論に達する。つまり桐吾は、澪ならばなんでもいいのだ。ふにゃふにゃしていても頑張っていても。突然姿を消してしまうのは本当に困りものだと思うが――。

(そうだ、スマホを持たせよう)

 これまで必要性を感じなくて先延ばしにしていたが、こうなると必須事項のような気がする。どこかに飛んでいった澪を迎えに行けないのは致命的だ。神気が足りなくて家に戻れないなんてことがあるかもしれないのだし。

 デスクで難しい顔をする冷徹部長・久世。
 まさか愛妻のことを考えているとは部下の誰も想像もできなかった。

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