明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「でも本当に。わたくしいずれSAKURAのトップに立ちたいのです」

 気宇壮大なことを言われて桐吾は絶句した。SAKURAホールディングスは日本で指折りの大企業だ。創業一族の一人とはいえ難しかろう。

「そのための策を一緒に練れる方を今でも募集中ですわ。気が向いたらお声がけくださいな」
「……それはないと思いますが。夢の応援はさせていただきます」

 向日葵が縁談に乗り気だった裏の理由がわかって桐吾はすっきりした。しかも桐吾のことをずいぶん高く買ってくれていたらしい。同じく一族への不満を抱える身として引き締まる思いだ。
 向日葵はあっさり切り替えて真面目な顔をした。

「まずは今回の事業提携からですわね」
「そうですね。そちらの()から出されたプランAに難ありという点で合意が取れたので、水面下でプランBを作成するということで」
「話が早くて助かりますわ。そのためにこんな所にお呼びしましたの」

 だが向日葵はさらに声を小さくした。さらに秘密の本題があるのだった。

「接触を持っている双方に――情報漏洩があると見ているのですけど」

 桐吾は眉を上げた。久世建設とSAKURAホールディングスに癒着があると言いたいのか。

「根拠は」
「最近の入札。おかしいと思いません?」

 それは桐吾にも心当たりがあった。
 久世建設に比べ絶妙に安い価格を出してくるSAKURAホールディングス。建設部門を持っておらず下請けと組んでの話なのに妙だ、と久世の社内でもささやかれている。それが久世内部と組んで行われていたとすれば。

「背任――になりますね」

 桐吾の表情が消えた。考えごとをする時のくせだ。
 伯父がやっているのなら、狙いは久世建設に閉塞感を与えSAKURAホールディングスと組むよう仕向けること。その後経営を安定させてから息子・尚親に継がせたいのだろう。もちろん現在も情報料をもらって尻尾を振っているはず。金に汚い伯父のやりそうなことだ。

「――わたくしも久世建設そのものには興味があります。でも安く買い叩くつもりはありませんのよ。健全な経営があってこそ、健全な事業を持続できるのですから」

 桐吾の思考がまとまっていくのを感じたのか、向日葵はそう意見を添える。彼女は確かにビジネスパートナーとして申し分のない相手のようだった。


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