明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 澪の力――それは、「想いをかけた所に身を運ぶ」というもの。
 愛を源にする祟り神のやることとして納得できると桐吾は思った。愛したものに会いに行きたいなんて、とても澪らしいじゃないか。

「ただい――うわっ!」

 玄関を入った桐吾は悲鳴を上げた。リビングのドアが開いていないのに澪があらわれたのだ。

「おかえりなさい」
「み、澪。何を」
「ええとね、上手に〈飛べる〉ように練習を」

 澪はニコニコ顔だ。今ソファにいたのだが、その姿勢からちゃんと立って出現できた。最初に試した時は見事に尻もちをついたのに。

「家の中でしかやっていないから、だいじょうぶよ」
「大丈夫……なのか? いや、何が大丈夫なのかわからないぞ」

 桐吾の鞄を受け取った澪は、今度はドアを開けリビングに入る。ワーキングスペースに鞄を置きに行く足もとでは猫のままの白玉がぐでっと寝そべっていた。

(……まあ大丈夫か)

 白玉が静観しているならいいのだろう。澪本人より祟り猫への信頼感の方が高いことに気づいて桐吾は咳ばらいした。

「そんなに何度もやっていないから心配しないで」
「あ、ああ」
「白玉に注意されてるの。力を使いすぎると消えちゃうぞ、て」

 消える。前にも言われたことだが、その言葉の意味に震撼し桐吾はまなざしを険しくした。

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