明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

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 伯父の告発という重苦しい話を終えた桐吾から呼ばれ、澪は忠親にいとま乞いするため顔を見せた。だが応接間には入らず、控えめに廊下から軽く手をついて頭を下げる。

「――また立ち寄らせてくださいませ、お爺さま」

 親しみが透き通るようなその声に忠親は目を上げた。
 今まで話していたのは実の息子の裏切について。不愉快だった空気が澪の出現ですうっと入れ替わる気がする。「そばに置いてホッとする人だ」と桐吾が言っていたのを思い出した。ふと気が向いて忠親は澪に声を掛けた。

「うむ。次は少し話そう」
「お忙しいのにお会いくださって、ありがとうございます」

 今日は時間がなくて澪と話せなかっただけ。そういうことにし、澪は遠慮がちに笑う。
 なるほど良い嫁かもしれん。忠親はうなずいた。

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「――驚いた」

 久世家の門を車で出てすぐ、桐吾はつぶやいた。狐につままれたような顔だ。

「何がですか」
「爺さまが軟化したぞ。最後のあれはなんだ」
「何って……変でした?」

 めちゃくちゃに変だった。その日会ったばかりの孫嫁に愛想良くするだなんて。

「え……あれ愛想いい方なの?」
「まあ、そうだ」

 一般的にはまったく友好的ではない態度だが、忠親としては仰天するレベル。その前の苛立ち具合からいって澪のことなど無視されると思っていたのに。

 桐吾との会談は、内容が内容だけに忠親も非常に不機嫌だったのだ。
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