明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「あ、うん。髪結いさんに勧められて」

 髪結い、とは美容院のことだ。そこで着付け終わりに桐吾のスマホで撮影してある。こんなに気軽に姿を残しておけるなんて、と現代の写真技術に澪は感激していた。

「そうかそうか。眼福よな、桐吾」
「まあな」

 白玉の所業に腹を立てつつも桐吾の頬がゆるんだ。
 澪の着物姿は正面だけでなくたくさん撮った。髪のまとめ具合も撮ってやると言って斜め上から撮影した一枚もある。キラキラした髪飾りとともに、澪のうなじと抜いた襟足が最高だった。写真のどれかは後で待ち受けに設定するつもりだ。
 白玉も愛おしげに澪をながめては、うなずいている。

「いつまでも見ていたいぐらいじゃ。だが澪も疲れたであろう。着替えてはどうだ?」
「うん、そうね。せっかくの新しい帯を汚してしまったらいけないし」

 白玉の誘導はなんだかわざとらしい。だが素直な澪は自室に引っこんだ。その隙を狙い白玉は桐吾にそっと近寄る。桐吾は不審な目で見た。

「……なんだ」
「我は澪の部屋を出てやったゆえ、もう気兼ねするでないぞ」
「……は?」

 何を言われているのかわからない。だが白玉にしてみれば男同士で通じている気分なのだった。桐吾の腹をウリウリ、と肘で小突く。

「澪の寝ている部屋とここは離れておる……となると音も揺れもここにいれば気にならん。存分にいけ」
「……? ……っ! おまっ」

 夜這いをそそのかされているのだと気づき、桐吾は絶句した。

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