明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「け、警察だと」
「当然でしょう。さて、当時の証拠書類なんかは残っていますか? 今から隠蔽しても無駄ですがね」

 桐吾はわざとらしく部屋の中を見回す。その片手はずっと不自然に背中へ回っていた。隠し持っているのは――櫛の木箱。話に気を取られ、正親は桐吾の持つ物になど観察が及ばなかった。

「とりあえずこの件は取締役会に報告します。刑事告訴については高橋に前向きに検討させますので」
「こ、こら桐吾!」

 ガタタ、と立ち上がる正親の視線がそれた隙に、桐吾はデスクの端に木箱を置いた。

「あの女は、私のおかげでクビにならずに済んだんだぞ! 感謝されていい!」
「――いい加減にして下さいよ」

 冷たく吐き捨てて、桐吾はドアを開ける。

「この足で会長に連絡を取りに行きますので、そのつもりで」
「やめろ!」

 正親は「会長」の言葉に大きく反応し、桐吾を追いかけてきた。この年になっても厳しい父親のことが苦手なのだ。慌ててバタンと閉められた役員室ドアの中は無人――。

(よし、今だ)

 桐吾は堂々とスマホを取り出した。澪にメッセージを送る。
 正親には会長へでも連絡したように見えたのではないか。小さい悲鳴が上がった。周囲の社員たちが怪訝な視線を送ってくる。
 そして――――。



「――来たわ!」

 マンションでメッセージを受け取った澪は白玉に手を伸べた。

「おいで」
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