明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 社内で騒ぐわけにもいかず正親が引き下がってしばらく。部署に戻りかける桐吾のスマホが鳴った。澪からの着信だった。
 成功のしらせを期待した桐吾だが不審に思う。メッセージにしろと言っておいたのに。胸騒ぎがした。

「――もしもし?」
『おい桐吾、帰ってこい』

 応答したら、聞こえたのは白玉の声だった。切羽詰まった口調。

「なんでおまえが。澪はどうした」
『――倒れた。力の使いすぎであろうな、おそらく』
「なんだと」

 血の気が引いた。
 祟り神の力を失う――そんなことになれば澪は。
 消える。そうなのか。

『澪に神気をおぎなってやらねばならん。わかるか桐吾』
「わか――いやわかるが、それは」
『澪を愛しておるのだろう?』

 白玉がズバリと言う。桐吾をあおるような口調だ。

『何をためらう。澪がいなくなってもいいのか。グダグダ迷っている場合ではあるまい』
「――」
『家には戻れた。待っておるぞ』

 プツ。言うだけ言って白玉は通話を切ってしまった。桐吾は硬直し――いや、すぐに駆け出した。無意識に。
 席に戻ると鞄を確認しバサとコートを取る。華蓮が異変に気づいた。

「部長?」
「高橋」

 青ざめながら桐吾は指示した。

「すまん早退する。家族が倒れた」
「え――わかりました。早く帰ってあげて下さい」

 桐吾が「家族」と言うなら、それは澪のこと。
 了解した華蓮は勤怠処理を請け負ってうなずいた。胸に、ほんの少しの痛みを抱えながら。

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