明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 桐吾はぼう然と澪を見つめる。白玉は今にも澪があぶないと言わんばかりだったが――。

「澪――つまり自家発電できると」
「ごめんなさい、その言葉わからないわ」

 澪は視線だけを横にそらした。いたたまれない。心配かけたうえに、やっぱり物知らずだなんて。
 だけど澪の上に桐吾が降ってきた。ずっしりのしかかられる。耳の横で桐吾の盛大なため息が聞こえた。

「と、桐吾さん」
「よかった――」

 桐吾のうめき声は安堵に満ちていた。白玉にだまされたらしいが、それもどうでもよくなった。澪はぎゅう、と抱きしめられる息苦しさの中で思い出した。

『消えないでくれ。おまえがいなきゃ俺は』

 さっき桐吾はそう言わなかっただろうか。寝起きにいきなりでぼうっとしていたけれど、確かそんな台詞を聞いた気が。

「あの、桐吾さん」

 澪はすぐ隣にささやいた。互いの頬がふれている。

「私のこと、そんなに心配してくれて」
「あたりまえだろう」

 わずかに桐吾が体を起こした。鼻がかすりそうな距離で澪をにらむ。

「澪は俺の妻だ――もう契約だなんだと誤魔化すのはやめる」
「桐吾さ――」
「ここにいてくれ。俺はもうおまえを放さない。文句ないな?」

 吐息のように愛の言葉をぶつけられ、澪は何も言えない。かすかにうなずくと桐吾のまなざしに甘さが宿った。

「澪――」

 つぶやきと共に、唇が澪の上に落ちてきた。


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