明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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世間の正月ボケがさめた頃、久世建設の会長室に二人の男が呼び出された。常務取締役の正親。そして地域開発事業部第二部長の桐吾だ。
だが桐吾が立っているのは、会長である忠親の横。正親は青ざめる。
正親は十二月の段階ですでに一度、懲戒処分を受けていた。高橋華蓮へのパワハラの件で。今度は何が、と暗い疑念がうずまく正親の胸の内を見透かすように忠親は険しい目をした。
「正親ッ! おまえ、久世建設をSAKURAホールディングスに売りつける気かッ!」
「ひっ」
一喝され、正親は身をすくませた。
この怒声。厳しい父親が正親は子どもの頃から大嫌いだった。それが父と違う路線を選びたかった理由でもある。だがもう正親もいい大人、気後れしながら必死にしらを切った。
「な、なんのことです、お父さん」
「馬鹿もんが! 証拠はとうに挙がっとる! 見たいか?」
バサリ。
忠親がデスクに投げ出したのは紙の束だった。正親からSAKURAホールディングスへのメールを印刷したもの、向こうから正親への送金明細、正親がリークした情報によりディスカウントされたSAKURAホールディングス側の入札資料など。ざざっと目を通しながら正親がうめく。
「これは――」