明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
「桜山守の向日葵さんが協力してくれましてね」

 桐吾は静かに口を開いた。ワナワナふるえる伯父にかまわず要点を告げる。

「あの人は不正が大嫌いなんですよ。伯父さんが紹介してくれたおかげで協力を取り付けられて、双方の証拠が揃いました。今頃あちらでも告発が進んでいるはずです」
「桐吾――おまえぇっ!」

 甥から見下され、正親は癇癪を起こした。つかみかからんばかりに一歩前に出るが、

「正親」

 重々しい父親の声。息を荒くし踏みとどまる正親を、桐吾は冷笑する。

「暴行罪まではつけずに済みますか。今回の件は立派な背任にあたるので、告発やむなしなんですが」
「告発だと……? け、警察に身内を売るのか?」
「売られるようなことをしたのはどいつだ」

 おどおどする正親に嫌気がさしたのか、忠親の声が苛立ちをあらわにした。

「わしとて実の息子を売りたいわけではない。だがおまえには失望した。まともに働いておれば、そこそこの地位をまっとうしたろうに」

 それは失脚・解雇宣言だ。膝から崩れ落ちる正親に、忠親は言い放った。

「わしの跡を継がせる者についてはずいぶん迷った。だがおまえは期待に応えようとせなんだし仕方あるまい。この桐吾を次の経営者として育てようと決めたぞ」
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