明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 壁際のキャビネットがビリリと鳴る。デスク脇に飾られていた花瓶が傾き、桐吾があわてて支えた。

(――澪?)

 見れば青ざめた澪が哀しげに正親を凝視している。これが――昔の久世家が〈祟り神・澪〉の調伏を決意した原因のアレというわけか。

「なんじゃ今のは。地震か?」
「……ですかね」

 不審な顔の忠親にポルターガイストだとは言えない。澪は近寄った桐吾を見上げて泣きそうだった。

 今のは澪の哀しみ。水無月の家と、愛する桐吾を侮辱されたことへの。
 愛の祟り神の力はささやかで、ろくに人を傷つけることもない。だが澪の意思を感じた。

 大きな地震にはならないと思った忠親は、へたり込む息子に視線を戻す。
 
「正親よ。おまえこの澪のことを『愛人にしておけ』と言うたそうだな。こんな良い娘になんという暴言。人を見る目がないからこういうことになる!」
「い、いやお父さん、私は本人に会ったのは初めてで……」
「うるさい! ちょうどいい、澪に土下座しておけ!」

 小娘に土下座しろとは、正親にとっては耐えがたい屈辱だ。硬直してしまったが忠親は許してくれない。ふん、と鼻息荒い忠親に詰め寄られ、正親はダラダラあぶら汗を流した。

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