明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 夜毎抱きしめる澪の体は生身の肉体と変わらない。これが祟り神として祀られていたなんてと桐吾は時々不思議になった。自分で祠を壊していなければ絶対に信じなかっただろう。
 どうやら祟ったばかりの頃――封じられる前には本当に幽霊のようなものだったらしい。それは白玉も同じだそうだ。「あの頃は壁も抜けられたものよ」とうそぶいていた。だが「メス猫にふれることができずに悔しい思いはした」とも言っていたので良し悪しだ。
 澪も白玉も、何故こんなふうに実体を持つようになったのか――それはよくわからない。


「水無月――水無月――」

 水無月家の名が刻まれた墓を一基ずつ、横の墓誌をのぞき込みながら澪の心は平らかだった。
 墓参して哀しくなったらどうしようかと思っていたが、そんなことはない。とても懐かしくはあるが、むしろ嬉しかった。

(――私ね、今とても幸せなのよ冬悟さん。だから心配しないで)

 そう報告したい。

「にゃ」

 ひと鳴きした白玉が、ある墓の前でちょこんと座った。首をかしげた澪が寄っていく。

「そこなの? ――あ」

 澪は息をのんだ。本当に冬悟の名が入っている。しみじみと立ち尽くした。
 冬悟が葬られている墓。建てられている石はそんなに古く見えないので、どこかの時点でまとめて改葬されたりしたのかもしれない。
 追いついた桐吾は一歩下がってそれを見守った。百五十年ぶりの邂逅を邪魔するほど野暮ではない。頭を垂れ動かない澪は微笑んでいて、それに桐吾は安堵した。

「みゅう」

 白玉が桐吾の脚をつついた。テシ、とさわったまま中空を見上げている。

「――?」

 その視線の先を追った桐吾は、目を細めた。
 うっすらと誰かがいる――あれは、もしや冬悟?

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