明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
(澪を頼む? そんなこと頼まれなくても幸せにするさ)

 桐吾が澪を気にしたのは、自分の中の冬悟のせいかもしれない。
 だが愛したのは――絶対に桐吾自身の心だ。そして澪が桐吾を愛したのも。

 素直で快活な笑顔の冬悟。不愛想が基本の桐吾とは全然違う。今の二人が惹かれ合うのは〈桐吾と澪〉だからだ。

(過去の記憶? それとも運命? いいや、そんなものクソくらえだ。俺は俺で、澪は澪。俺はただ〈久世桐吾〉として澪を愛し抜いてやる)

 消えてしまった冬悟のおもかげをにらみつけ――そう誓う、桐吾の宣戦布告。
 澪に特別な感情を持つ男など、桐吾にとっては単にライバルでしかない。それが百五十年前に死んだ男であろうとも。


「――あ、ごめんなさい桐吾さん。お掃除してお花をあげないとね」

 振り向いた澪が待たせていたことを謝罪する。その笑顔は明るかった。
 桐吾は水桶と花を地面に置く。そして――。

「え。とうご、さん?」

 すっぽりと澪を抱きしめた。

 ――これは俺のもの。

 そんな我がままをこめて抱擁され、澪はきょとんとする。でもそっと腕を桐吾の背に回して抱き返した。
 見せつけられた冬悟は何を思ったろうか。それは白玉にもよくわからなかったが、想像はついた。

(冬悟の奴、きっと大笑いしておろうな――)

 その笑い声は澪にも桐吾にも届かない。だがそれでいいのだ。
 いつか。いつかまた、会えるから。澪と桐吾がこの人生をまっとうした後で。

 冬の空にやさしい風が抜けていく。
 笑うように行く風を見上げ――白猫は大きなあくびをした。



   了

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