明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
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 白玉は「人間の邪気を食べた」と言った。
 怒りと恨みを力の源に〈祟り猫〉となった白玉は、人の悪意を神気に変えて人に成っているという。出かけた際の電車や街でたんまり栄養を摂取したのだ。

「――仕事から帰った俺も吸われていたなんて」

 桐吾はうめいた。
 今は日曜日の買い物タイム、ご近所仕様のラフな格好だが桐吾の表情はどんよりしていた。

「毎日桐吾さんをお出迎えしてたのはそれなのね」
「にゃお」
「猫吸いって猫を吸うことだろう。逆に吸われるのは納得できないんだが」
「みぃー」

 桐吾の文句など受け付けない。そう態度で示す白玉は、ハーネスをつけ悠々と歩いていた。猫の姿で。
 たまに舌なめずりしているのはたぶん、〈邪気〉とやらを味わっているのだ。

 桐吾が帰宅したとたん白玉が飛びついてきたのも頬を舐めたのも、たんに食事的なものだったらしい。
 会社で受けたストレス、苛立ち。また周囲の人間が発した悪い気。それらが桐吾にまとわりついていたようだ。
 でも実は、桐吾だって猫が嫌いではない。白玉と友好関係を築けたのかと思っていたのに喰われていただけとは。とんだ肩すかしだ。

 今日は少年・白玉用の服を調達しにショッピングモールへ行く。水干姿では何かの祭礼の参加者にしか見えなくて外を歩けないのだ。
 二人と一匹の状態で街を行くと何やら幸せな家族っぽかった。澪が笑顔になるのを横目で見、桐吾は苦笑いであきらめる。

(もうなんでもいい。澪が嬉しいのなら)

 祟り猫を飼っていようと問題はないのだ。とりあえず澪が桐吾の〈妻〉なのは変わらないのだし、今の白玉は猫の姿だ。邪魔はされない。

「澪」

 桐吾はス、と手を取った。指をからめ恋人つなぎにする。

「え――桐吾さん」
「俺にしっくりなじんでもらわないとな。妻なんだから」

 澪が手を引きかけたのを強引に握りしめた。つないだままの親指で澪の指の付け根をさする。人目を盗んだ愛撫。

(冬悟なんていう過去の男に加えて、白玉までオスだとは。俺の前でこれみよがしに澪になついてみせるのが気に入らない)

 少年を胸に抱いたりする澪への、これは仕返しなのだった。その澪は――。

(や――やん、手汗が)

 高鳴る胸と必死で戦っていた。
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