明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 男女のことにはうとい澪だが、桐吾のこの仕草には妙にドキドキする。相変わらず《《現代の普通》》がわからないのでうつむきがちに我慢した。

 ショッピングモールに到着して、桐吾はやっと澪を解放する。白玉をキャリーバッグに入れるためだった。白猫が桐吾をにらんだのは今の一連への抗議だろうか。

「子供用品は二階か」

 桐吾は白玉の反抗を黙殺し、澪と連れだって店に入った。


 ――その二人と一匹を隠れて見守る女がいた。高橋華蓮。
 今日は主婦っぽく雰囲気を変え伊達眼鏡まで掛けている。尾行のための変装だ。

(すみません、部長)

 心の中で謝るが、華蓮だってどうしようもなかった。これは常務取締役・久世正親(まさちか)からの命令――桐吾が同棲している女が何者なのか調べろ、とのきついお達しだった。
 嫌々ではあるが、個人的な興味がないとは言わない。華蓮だって桐吾への想いをほんのりと持ち続けている――だがスパイの身。叶うはずがない恋だった。
 そんな華蓮の前にあらわれた可愛らしい女性、澪。
 わかっているのは「澪」と桐吾が呼んだ名だけだ。平日は他の人間がマンションに張りついていたのだが、ひとりで外出することもなかったそう。休日になってやっと動いた二人を追った華蓮は――桐吾が入っていく店を確認し、動揺を隠せなかった。

(こ、子供と赤ちゃん用品! ――まさか、妊娠!?)

 澪が両親と喧嘩して家出したというのは、そういうことか。
 華蓮は勝手に納得し、蒼白になった。

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