明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 桐吾は心を鎧った。ゴージャス美人の見た目に意識を取られるが、向日葵は仕事でも結果を出してきた有能お嬢さまだと知っている。

「――久世との婚姻が桜山守に与えるメリットについてお訊きしても?」
「そうですわね――」

 向日葵はゆったりと笑んだ。無表情のまま桐吾は待つ。

(桜山守にとってもこれはビジネス)

 破談になって失う利益を把握しているということは裏を返せば、利害関係さえクリアすれば問題ないとの提示だ。

「――まず縁組によって久世建設の買収をスムーズに行えると期待しますわ」
「売買収の意向は弊社の方針と合致しない。うちの常務がそうほのめかしたなら懲戒に値しますね。あるいはSAKURAホールディングス側の勇み足ですか? 久世の抵抗をおして敵対的買収を行うほどの利はないかと」
「――ええ。これはごく一部の検討段階ですわ。建設系はどうしても規模のあるところが強くて。SAKURAの弱点といえるかもしれませんの。補強のために組む相手としてふさわしいと評価しましたわ」

 会話の中身は澪にはちんぷんかんぷんだ。口を挟めないので、おとなしくドリンクを飲んで控えている。

(向日葵さん、私とは正反対。かっこいいな……)

 甘いものと、おだやかな公園。目の前には美女。難しい話。
 現実感がなさすぎて、澪はふわふわした気分になった。そんな澪に目をとめた向日葵はやさしく微笑む。

「――まあSAKURAと久世の関係は置いておくとして。この縁談に前向きなのは、おもにわたくし個人の野心、ですかしら」
「……というと?」

 ちょっと面倒な気配を感じ、桐吾は身がまえた。
 向日葵はテーブルに片肘をつき、形のいいあごを優雅に手で支える。桐吾の瞳をのぞき込みながら提案した。

「わたくしと、契約結婚いたしません?」

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