明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
澪が桐吾の妻ではなくなる、というのは。
「――契約のことか?」
「そう……だって私、お見合いを駄目にするために必要だったのでしょ? それが成功したならもう」
「まだわからない!」
不意に声を強くした桐吾に、澪はビクッと体をすくませた。後部座席から白玉が不満そうに「うみゃ」と鳴く。車に乗り込んでさっさと猫に戻り、ウトウトしていたのだ。
「……悪い。少しイラッとした」
「どうして。私のせい?」
「違う」
澪を不安にさせたことを後悔し、桐吾は口調をやわらげた。信号で停車した隙にさっと澪の頭に手を伸ばしポンポンとなだめる。常に人に気を配る澪だから、すぐ自分がいけなかったと考えがちなのは知っているのに。
「――伯父がどう出るかわからないからな。あの向日葵だって、仕事に絡んでくる気満々だ。澪にはまだまだ俺のそばにいてもらわないと困る」
「そう……」
「嫌なのか?」
「まさか! そんなわけないわ」
澪は安堵して笑った。
(……桐吾さんと離れたくない)
できるならずっと。そう考えたが言えなかった。
自分など、わけのわからない祟り神だから。
(……澪を離すものか)
桐吾も思っていた。だがやはり口には出せない。
澪はまだ冬悟のことを忘れていないはず――桐吾は遠くを見つめた。
怯える澪を抱きすくめ、口づけて黙らせ、とろけさせてやりたい。そうすれば桐吾のことだけを考えるようになるだろうか。
澪の許婚。そして桐吾の出自につながる人。
水無月冬悟のこと、きちんと二人で話すべきなのか。冬悟の話になって涙ぐんだ澪の真意が気になり、桐吾はずっと落ち着けないのだから。