明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 ✿ ✿


「ふにゃぁ……」
「白玉みたいな声を上げるな」

 翌朝、ソファで起き上がった澪はどんよりした目で桐吾に向かって鳴いた。いつの間にか掛けてもらっていた布団が気持ちいい。苦笑いの桐吾がソファまで湯呑を持ってきてくれた。

「ほら、お茶でも飲め」
「はぁい……」

 ずず。
 あたたかい緑茶が美味しかった。ソファにうずくまったまま両手で湯呑を持つ澪のことを、白玉が冷たい目でながめる。

「みゃお」
「そう言うな。俺が悪かったんだ。ちょっと酒を飲ませたら思いのほか効いたみたいで」

 白玉は猫のままで非難の声をあげたのに、桐吾が普通に受け答えする。それがおかしくて澪はへにゃ、と笑った。

「お話しできてる」
「あ――そうだな。今の合ってたか、白玉」
「にゃん」

 猫は肯定の鳴き声で応じた。だが内心ではやや桐吾を馬鹿にしている。

(せっかく我が引っ込んで二人にしてやったというに、酔いつぶすだけで手を出しておらぬだと?)

 朝のカリカリを食べ終わった白玉は、毛づくろいしながら人間たちを見比べてしまった。
 ぼんやりとお茶をすすりヘラヘラする澪。
 いつもの無表情で朝食のしたくをしている桐吾。
 ――どこにも事後感はない。

(さっさと口説かんか。ヘタレめが)

 白玉はこれで百戦錬磨。メス猫の切なげな鳴き声に馳せ参じ、近所のオス猫たちと争ったことを思い出す。今度人の姿になったら武勇伝を桐吾に聞かせてやらねばならないか。

「ふぅぅ……にゃっ!」

 シャキっとせんか! そんな気持ちをこめ白玉は鳴く。
 じとっと桐吾を見上げてみたが、人族の男は怪訝な顔で白玉の発破をやり過ごすにとどまった。


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