明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします

スパイの休日


 ✿ ✿


「部長、お疲れさまです。週末は確か桜……ンンッ、の……だったのでは?」

 部署に戻る桐吾に近づいたのは高橋華蓮だった。桜山守、とハッキリ言わず、咳ばらいで濁して見合いの首尾を尋ねる。久世家御曹司である桐吾の縁談はいちおう秘密事項だ。

「ああ、高橋が気にしてくれていたアレか。無事にキャンセルだ。直接話をつけた」
「直接……さすがです」

 華蓮はそっと頭を下げる。見合いが壊れたのは少し安心できた。
 だが、桐吾がそうした理由は――澪。意中の女性がいるという点で華蓮の胸はズキンと痛む。自分が、と出しゃばる気は毛頭ないが女心は複雑だ。

「先方とは今後、業務提携があるかもしれない。その場合は高橋もよろしく頼む」
「ビジネスにつなげてらしたのですか。すごいじゃないですか」
「向こうが元々そのつもりだっただけだ」

 桐吾はなんでもないと言い切るが、実現すれば莫大な金の動く案件になるはずだった。
 華蓮はふう、と呼吸を整える。常務の正親から命じられたある事(・・・)のせいだ。
< 94 / 177 >

この作品をシェア

pagetop