明治女子、現代で御曹司と契約結婚いたします
 黙ってしまった澪のことを、華蓮は勝手に誤解した。どこかの良い大学に通っているが、家出の件があって授業に出席しづらく悩んでいるのだろう。学費だって親持ちなら、いっそ退学して働いてしまいたい――というのは苦労知らずのお嬢さんらしい発想だと思った。

「失礼ではありますが……ご家族とはお話しできました? 家出、したんですよね」
「……いえ、ちゃんとは」

 澪は曖昧に答えた。

(家出。これ家出なの? あの祠は壊れちゃったし、帰る家なんてない)

 澪のこと、桐吾はもう一度封印しようとするのだろうか。今は偽物の妻という役割があるから一緒に暮らしてくれるけど。
 考えると澪はますますしょんぼりしてしまう。華蓮はなんだか澪がかわいそうになって励ました。

「ああ、ご両親も怒ってらっしゃるのかな。そうか、久世部長ってやり手のビジネスマンですからむしろ信用できないかも。大事なお嬢さんが悪い大人にだまされてるみたいに思われたんでしょうね」
「私、だまされてるんですか?」

 びっくりする澪に華蓮は吹き出して笑ってしまった。

(なんて素直な子なんだろう――部長が守ってあげたくなるのもわかっちゃう)

「そんなわけないですよ。澪さんのことを話すと、部長の声がやわらかくなるんです。自信持っていいですからね」

 何故か澪を力づける感じになってしまい、華蓮は自己嫌悪におちいる。とんでもない嘘つきになった気がして嫌だったが――それでも澪に好感を持ってしまうのは止められなかった。

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