あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
「終わりました。……あの、旦那様」

 布の端を軽く押さえたまま、ひなは意を決して口を開いた。

「……どうして、私をお呼びになったのですか?」

 思わず訊ねていた。
 女中なら他にもいる。山根でも春江でも、信頼のおける人たちはいるはずだ。
 数拍の沈黙ののち、慶一郎がゆっくりと口を開く。

「それは……おまえが薬師だからだ」

 もっともな理由だった。自分の立場を思えば、納得のいく答え。
 だけど、それだけなのだろうか──。
 胸の奥にわずかに差し込んだ光が、するりと手のひらからこぼれ落ちるような感覚がした。

「そう……ですか」

 ひながうつむきかけたそのとき、慶一郎がもう一度、ぽつりと続けた。

「あと──」

 短く間を置いて、慶一郎は背を向けたまま、布団の上で身じろいだ。
 もぞり、と肩がわずかに動く。

「他の者は……手が冷たい」

 まるで独り言のような、小さな声だった。
 嘘とも本音ともつかないその答えに、ひなは胸の奥がほんの少しだけざわついた。
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