あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
3・お見合い
女中として早乙女家に仕えて数年。
ひなは二十三歳になっていた。
慶一郎も、大奥様も、女中仲間たちもみんな優しかった。
日々は穏やかで、早朝から働き、夜は足を揉み合いながら囲炉裏端で笑い合う。
質素ではあるが、悪くない日々だった。
このまま、この家で女中として生きていくのも、悪くないかもしれない。
そんな風に思っていたある日のこと、先輩女中の春江に声をかけられた。
「ひな、大奥様がお呼びよ」
清栄が女中を個別に呼ぶことは珍しかった。
なんの用だろうと思いながら、ひなは奥座敷に足を運ぶ。
襖の前に膝をつくと、かすかに優雅な香の匂いが漂ってくる。
「大奥様、ひなでございます」
「どうぞ、入って」
奥から和やかな声が返る。襖を開けると、清栄は肘掛け付きの座椅子にゆったりと腰かけ、手元の扇子をゆるりと仰いでいた。
ひなの姿を見ると、清栄は扇子を静かにたたみ、やわらかな目を向けた。
「ひな、そろそろあなたのことを、真剣に考えてあげなければと思っていたのよ」
「……私のこと……で、ございますか?」
ひなは戸惑いを隠せなかった。思いも寄らぬ言葉に胸がざわめき、視線を落としたまま、思わず指先を袂の中で握る。清栄の口元には、ふっと深みのある笑みが浮かぶ。
「お見合い話よ。なんと、子爵家の嫡男・篠宮真澄様からご縁談が舞い込んだの。あちらが、平民のあなたでもかまわないとおっしゃっているのよ。これはありがたいことじゃないの」
ひなは二十三歳になっていた。
慶一郎も、大奥様も、女中仲間たちもみんな優しかった。
日々は穏やかで、早朝から働き、夜は足を揉み合いながら囲炉裏端で笑い合う。
質素ではあるが、悪くない日々だった。
このまま、この家で女中として生きていくのも、悪くないかもしれない。
そんな風に思っていたある日のこと、先輩女中の春江に声をかけられた。
「ひな、大奥様がお呼びよ」
清栄が女中を個別に呼ぶことは珍しかった。
なんの用だろうと思いながら、ひなは奥座敷に足を運ぶ。
襖の前に膝をつくと、かすかに優雅な香の匂いが漂ってくる。
「大奥様、ひなでございます」
「どうぞ、入って」
奥から和やかな声が返る。襖を開けると、清栄は肘掛け付きの座椅子にゆったりと腰かけ、手元の扇子をゆるりと仰いでいた。
ひなの姿を見ると、清栄は扇子を静かにたたみ、やわらかな目を向けた。
「ひな、そろそろあなたのことを、真剣に考えてあげなければと思っていたのよ」
「……私のこと……で、ございますか?」
ひなは戸惑いを隠せなかった。思いも寄らぬ言葉に胸がざわめき、視線を落としたまま、思わず指先を袂の中で握る。清栄の口元には、ふっと深みのある笑みが浮かぶ。
「お見合い話よ。なんと、子爵家の嫡男・篠宮真澄様からご縁談が舞い込んだの。あちらが、平民のあなたでもかまわないとおっしゃっているのよ。これはありがたいことじゃないの」