あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
「……おまえの手は、あたたかいな」

 ふいに背中越しに聞こえたその言葉に、ひなの心が一瞬止まる。

(え……?)

 意味は、それだけだったのかもしれない。あるいは、ただの事実を口にしただけ。
 最初に慶一郎の背中に薬を塗った時、緊張で自分の手がとても冷えていたことを思い出して、ここに来る前になるべく手を温めておいた。それに気づいてくれたのだろうか。
 いつものようにただ薬を塗っただけなのに、まるで身体の奥まで見透かされたようで。
 どうしてだろう。心臓が、少しだけ騒がしい。

「手当て、というのは支給金という意味もあるが……」

 慶一郎の低い声が、再び静寂を破った。

「怪我や病気を治すために処置をする、という意味でもあるな」

 語るような、呟くような声音だった。

「ふふ、そうですね」

 ひなは自然と笑みをこぼす。
 お互いの表情は見えなくとも、心のどこかがふっとあたたかくなった。

「俺は今、まさにおまえに“手当て”を受けているわけだ」
「……どちらの意味も、旦那様にとって馴染み深いものになってしまいましたね」

 くすりと、冗談のように言ってみせた。
 薬を塗り終えて布を当てる。
 ほんの少しでも、この傷の痛みが和らげばと、そう願いながら。

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