あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜

6・再会

 早春の朝。霧が低く漂い、山の空気を湿らせている。
 静けさに包まれた湯治場の旅館「湯乃谷屋」。ひなは柄つきの束子(たわし)で、温泉の掃除をしていた。頬に張り付いた髪をかき上げ、ふと空を見上げる。春の空はまだ薄く白んでいて、鳥の鳴き声が山のほうから微かに響いていた。

 掃除が終わると、止めていたお湯を再びはり、薬草を煮出した液をほんの少し混ぜる。
 こうすることで、元々の温泉の効能が引き立つ。
 
「ひなちゃん、それ終わったら休憩してなぁ」
「はい」

 湯守の男性に言われて、ひなは素直に返事をする。

 ひなは手を拭きながら、裏口から台所へ回る。湯気の立つ厨房では、味噌汁の香りと焼き魚の匂いが混ざり合い、鼻をくすぐった。

「ひなちゃん、ちょうどええとこ来てくれたわ」
 
 女将が、炊きたてのごはんをしゃもじでよそいながら言った。
 息子の慶翔も、ちょこんとお利口に座りごはんを食べている。
 ひなも、ようやく朝ごはんである。
 
「悪いけど、食べ終わったら今日の買いもん行ってきてくれへん? 嘉一さんが、また腰やってしもてな」
「はい、わかりました」
 
 ひなはすぐに頭を下げる。慣れたやりとりだ。
 女将は湯呑みをひとつ渡しながら、ふう、とひと息ついた。

「ひなちゃんが来てから、もう四年になんのやなあ……」
 
 その声には、懐かしむような響きがあった。
 
「最初は細うて、ちょっとの風でも飛んでってまいそうやったんやけどなあ」
 
 女将の視線はやさしく、どこか遠くを見ていた。
 
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