あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 ──四年前。ひなは早乙女家を出た後、行くあてもなく途方に暮れた。母の遺品の中に、母の友人からの手紙を見つけ、そこに書かれた住所を頼りに、汽車を何度も乗り継いで近畿地方の山間まで来た。

 母の昔の友人──河井とら(・・)は、旅館「湯乃谷屋」の女将だった。湯乃谷屋は、とらとその夫の嘉一(かいち)、そして湯守の男性で切り盛りしている小さな温泉宿。住み込みで働かせてほしいと言った時、とらは最初戸惑っていたが、それでも深く事情を聞かずに置いてくれた。薬草に詳しかったひなの知識は、薬湯の調合に役立ち、常連客にも重宝された。

 妊娠に気づいたのは、身を寄せて数ヶ月経った頃だった。月のものが来ないのを不思議に思い、とらに相談して町医者に行った。妊娠二ヶ月だった。自分の身に命が宿ったと知った時、うれしさと、ほんの少しの後悔が入り混じった、複雑な気持ちになった。その頃、慶一郎は資産家の娘と婚約したと新聞に載っていたからだ。それを見たひなは、ひとりでも産むと決めた──。

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