あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 ひなは、顔を伏せた。
 ──ここにいてはいけない。
 そう頭の中で何度も繰り返すのに、心は逆の方へ引き寄せられていた。

 そして、慶一郎の手がそっと頬に触れた瞬間、理性の糸が緩む。
 逃げなければならないはずなのに、身体が動かなかった。

「……やめてください。私は、ただの従業員です」

 掠れるような声。それは理性が最後に振り絞った、小さな拒絶だった。
 けれど、ひな自身がその言葉にどこか矛盾を感じていた。
  本当は、拒みたいのではなく、抗う理由を探していただけかもしれない。
 
「おまえがそう思いたいなら……そうすればいい。だが、俺の気持ちはもう隠せない」

 その声には、これまでにない熱がこもっていた。
 役割や立場の境界線は消え失せ、ただ一人の男として。
 慶一郎は目の前のひなを見つめているのだと、はっきりと伝わってきた。

(そんな目で見つめないで……)

 ひなはその熱に耐えきれず、思わず視線を逸らす。

 その瞬間、慶一郎はひなの手首を取り、軽々と彼女の身体を布団に沈めた。
 はずみでまとめていた髪がふわりとほどけ、肩に流れる。
 細い手首が頭上で交差し、片手で拘束されてしまう。
 あの夜とは違い、どこか強引で支配的な仕草だった。
 震える声で、彼を押しとどめようとする。

「や、やめて……っ。あなたには、婚約者が……」
「親が決めた相手だ。俺の気持ちは、そこにない」

 顔を背けようとするひなに、慶一郎は静かに囁いた。

「おまえの望みは、俺が叶えた。……次は、俺の望みを叶えてもらう」
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