あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 もう、終わったはずだったのに。

 あの夜、たった一度だけと決めて、この身を委ねた。
 誰かを愛したからでも、求められたからでもない。
 篠宮真澄──ただ、あの男と結婚したくなかった。

 それだけの理由で、ひなは慶一郎に縋った。
 敬意も、感謝も、ほんの少しの恋しさも、たしかにあった。
 けれどあの時、突き動かされていたのは「恋」ではなく「恐怖」だった。
 あのままでは、きっと心が壊れていた──そんな予感すらあった。

 「愛」ではなかった。あれは自分のわがまま。
 その代償は、自分ひとりで引き受けると決めていた。
 これはきっとその罰なのだ。慶一郎は、逃げ出した自分に怒りを感じているのだと思った。

 慶一郎の指先が、作務衣の合わせを無造作にほどいていく。
 さらしを解かれ、慶一郎が肌に触れるたびに、羞恥よりも熱を呼ぶ。
 愛されたいと思ってはいけないのに。
 こんな風に、見つめられてはいけないのに。なのに。

(もう、忘れようと思っていたのに……)

 そう心で呟くたび、ひなの指先から力が抜けていく。
 彼の指が頬を撫で、耳の裏をかすめるだけで、理性がじわじわと溶けていくようだった。

 慶一郎が、ひなの震える背中をそっと撫でる。
 彼の優しさに心が揺れるたび、混乱が深まっていく。
 これは罰なのか、赦しなのか──自分でも、もう分からなかった。

「もう、お許しください……」

 これ以上はなにかが壊れてしまいそうで、ひなはか細い声で懇願した。

「許す? なにをだ?」

 慶一郎の声色がわずかに変わる。
 ひなは息を整えながら、震える声で言葉を絞り出した。

「もう、充分でしょう……。これ以上の罰など、あなたになんの得があると言うのです……?」

 しばしの沈黙。
 次の瞬間、ひなの元に落ちたのは、どこか寂しげな吐息だった。

「罰、か──」

 背中越しに、慶一郎の気配がわずかに変わった気がした。
 ぴたりと張りつめた空気。
 ──怒らせてしまった、と感じた。
 
 後ろから支えていた手が、ひなの肩と腰に回される。

「これを罰と言うのなら、俺はもっとおまえに罰を与えねばならん」
「えっ……?」
 
 ぐいと引き寄せられるように、体がくるんと向きを変えさせられる。
 気づけば、うつ伏せになり──ひなは四つん這いの体勢になっていた。

「え……っ、ちょ、や……っ」

 羞恥に耐えきれず、ぎゅっと目を閉じる。
 しかし、抗うことはできなかった。
 慶一郎の昂ったものがぴたりとひなの秘部に添えられ、ひなの中へと沈み込んでいく。

 あの夜とは違う。
 より深く、より濃く、より貪るような夜──。
 
 どれだけの時間が経っただろうか。
 ただ、全身が甘く痺れ、心の奥までもが蕩けていく。
 
「……旦那……さま……」

 ひなは、観念したように慶一郎を呼ぶ。
 
「もう、〝旦那様〟ではない。……慶一郎と呼べ」

 荒く息を吐きながら、彼は静かに告げた。
 その言葉は、命じるようでいてどこか哀しげだった。
 過ぎ去った年月と、取り戻せなかった時間への悔いがにじんでいるようにも感じられる。
 
「……けいいちろう、さま……」

 ひなは瞼を閉じ、震える声でその名を呼ぶ。
 心の奥底にしまいこんでいた、本当の気持ちとともに。
 壊れそうなほど小さな声だった。
 けれどそこには、誰にも見せたことのないほど深い想いが、確かに宿っていた。

「ああ……ひな……」

 慶一郎の囁きが、深く優しく、ひなの胸に染み渡っていった。
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