あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
 ある日、洗濯物を干していたひなに、女将が声をかけてきた。

「ひなちゃん。最近、よぉ笑うようになったなぁ」
「え……?」

 女将は新しく持ってきた洗濯物の入った籠を足元に置き、うーんと腰を伸ばす。
 
「ほら、慶一郎さんが慶翔ちゃんと話しとる時。あんた、よう見とるやろ。……ああいう目で見られたら、あの人も悪い気はせんやろなぁ」

 不意を突かれて、ひなは思わず手にしていた布をぎゅっと握りしめる。

「私は……ただ、あの子が、嬉しそうだったから」

 それは嘘ではなかった。
 けれど、それだけではない自分に、ひな自身が一番気づいていた。

 早乙女家にいた頃は、自分とは違う、遠くの世界の人間のような存在だった。
 けれど今ここにいる彼は、湯に浸かり、飯を食べ、息子に本を読んでくれている。
 その横顔は、もう手の届かない人ではなかった。

 憧れは尊敬へ。
 尊敬は、心の深い場所でやわらかく芽吹き、静かに、重たく、甘い感情へと変わっていった。

 それが「恋」なのか、まだ確かめるすべはなかった。
 ただ一つ、彼がこの湯治場を去ってしまったあとのことを考えると──
 胸の奥が、どうしようもなく苦しくなるのだった。
 
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