あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
14・沙都子
ひなと慶一郎は今、葛城家の応接室にいる。
婚約について、話し合う場を設けたいと慶一郎が手紙を出したところ、目の前の葛城沙都子に、ぜひふたりでお越しくださいと、返事があったためだ。
慶一郎は、婚約を解消するために、詫びの品を持参していた。
しかしひなが呼ばれた理由は──やはり、なにかしらのお咎めがあるのだろうと、洋椅子に腰掛けながら膝の上で手に汗を握っていた。
聞けば慶一郎との婚約は、家同士が勝手に進めていた話とはいえ、ひなが篠宮との見合いをしていた少し前にはすでに成立していたという。
つまり、知らなかったとはいえ、ひなは沙都子から慶一郎を奪ってしまった形になるのだ。
慶一郎自身も、当時はそこまで話が進んでいるとは知らなかったらしい。
お茶が差し出されたが、とても口にする心境ではなかった。ひなは借りてきた猫のように肩をこわばらせて膝をそろえ、ただ小さく身を縮めて座っている。
やがて慶一郎が謝罪の言葉を述べ、深く頭を下げると、沙都子は真っ直ぐに慶一郎を見て言った。
「──お話は、わかりました」
愛らしい瞳は、悲しむ風でもなく、凛とした表情だった。
「お手紙を頂いた時から、そうではないかと覚悟しておりました」
「本当に、申し訳ありません」
慶一郎に続いて、ひなも頭を下げた。自分も謝罪を述べるべきなのか──いや、それはおこがましいのではないか。言葉が出ずに、ただ頭を垂れるしかなかった。
「……ですが、わたくしにも女としての矜持というものがあります」
「誠心誠意、償わせていただきます」
「ほんとうに?」
「自分の力の及ぶ限りではありますが……」
慶一郎が言うと、沙都子は艶やかに目を細め、ひなの方を見た。
「では、ひなさんを貸してくださる?」
ひなの背筋に、緊張が走る。
「え……」
「それは……」
慶一郎も、ひなをちらりと見て眉をひそめた。
ふたりの様子に、沙都子は口元を隠しながら「ふふふ」と微笑んだ。
「そんなに警戒なさらないで。少し、ふたりでお話がしたいだけですわ」
「しかし」
なおも言葉を継ごうとする慶一郎を制するように、ひなは彼の膝の上に置かれた手に自分の手を重ねた。
「慶一郎様、大丈夫です。私も……覚悟して参りましたので」
やはり、何かがあるのだ。
そう感じながらも、ひなは逃げ場のない思いで沙都子の視線を受け止めた。
婚約について、話し合う場を設けたいと慶一郎が手紙を出したところ、目の前の葛城沙都子に、ぜひふたりでお越しくださいと、返事があったためだ。
慶一郎は、婚約を解消するために、詫びの品を持参していた。
しかしひなが呼ばれた理由は──やはり、なにかしらのお咎めがあるのだろうと、洋椅子に腰掛けながら膝の上で手に汗を握っていた。
聞けば慶一郎との婚約は、家同士が勝手に進めていた話とはいえ、ひなが篠宮との見合いをしていた少し前にはすでに成立していたという。
つまり、知らなかったとはいえ、ひなは沙都子から慶一郎を奪ってしまった形になるのだ。
慶一郎自身も、当時はそこまで話が進んでいるとは知らなかったらしい。
お茶が差し出されたが、とても口にする心境ではなかった。ひなは借りてきた猫のように肩をこわばらせて膝をそろえ、ただ小さく身を縮めて座っている。
やがて慶一郎が謝罪の言葉を述べ、深く頭を下げると、沙都子は真っ直ぐに慶一郎を見て言った。
「──お話は、わかりました」
愛らしい瞳は、悲しむ風でもなく、凛とした表情だった。
「お手紙を頂いた時から、そうではないかと覚悟しておりました」
「本当に、申し訳ありません」
慶一郎に続いて、ひなも頭を下げた。自分も謝罪を述べるべきなのか──いや、それはおこがましいのではないか。言葉が出ずに、ただ頭を垂れるしかなかった。
「……ですが、わたくしにも女としての矜持というものがあります」
「誠心誠意、償わせていただきます」
「ほんとうに?」
「自分の力の及ぶ限りではありますが……」
慶一郎が言うと、沙都子は艶やかに目を細め、ひなの方を見た。
「では、ひなさんを貸してくださる?」
ひなの背筋に、緊張が走る。
「え……」
「それは……」
慶一郎も、ひなをちらりと見て眉をひそめた。
ふたりの様子に、沙都子は口元を隠しながら「ふふふ」と微笑んだ。
「そんなに警戒なさらないで。少し、ふたりでお話がしたいだけですわ」
「しかし」
なおも言葉を継ごうとする慶一郎を制するように、ひなは彼の膝の上に置かれた手に自分の手を重ねた。
「慶一郎様、大丈夫です。私も……覚悟して参りましたので」
やはり、何かがあるのだ。
そう感じながらも、ひなは逃げ場のない思いで沙都子の視線を受け止めた。