私の年下メガネくん
「とにかく、弁償するから一緒に買いに行こう。連絡先教えて」
 言ってから、はっと口を押えた。なんてことを口走ったんだろう。彼が買ったあとで代金を払えばいいだけなのに。
「では、お言葉に甘えます」
 意外にも彼がスマホを取り出すから、楓子は慌ててハンドストラップで下げていたスマホを手にした。

 連絡先を登録し、感情を消して彼に尋ねる。
「早い方がいいよね。今度の土曜日は?」
「あいてます」
「待ち合わせは駅前でいい? 何時にする?」
 彼は少しためらう様子を見せ、それから言った。

「駅前の金時計で、午後一時でどうでしょう」
「わかった、じゃ、また当日ね」
 無表情で会釈を返す葵に背を背け、楓子は暴れる心臓をなだめるように胸に手を当て、フロアに戻る。
 連絡先聞いちゃった! 待ち合わせの約束しちゃった!
 その日は油断すると顔がにやけてしまい、平静を装うのが大変だった。



 秋にしては少し涼しい土曜日。
 楓子はどきどきしながら金時計の下に立っていた。
 おしゃれな少女が友達と合流して歩き去り、何度も時計を見ていた若い男の子が、女の子が来るのを見た瞬間にあらぬ方向に顔を向けて待ってないふりをする。

 楓子は自分の服を自信なく見下ろす。ずいぶんと悩んだあげく、無難なブラウスとスカートだ。気合を入れ過ぎて引かれたくないし、ダサいと思われたくもない。
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