私の年下メガネくん
 髪はおろして、休日モードなだけと言い訳して、毛先をヘアアイロンで巻いた。
 彼はどんな服で来るだろう。いきなりイケメンになってたり……なんて展開、あるわけないか。だけど、メガネの下は、見とれるほどの美形だった。

 一緒に仕事をしているのに、彼のことはなにも知らない。今日のお出かけで、どれくらい知れるのだろう。
 と同時に、自分を彼に知られるのだと気が付いて目の前が暗くなった。
 アラサーともなれば仕事はばりばり、恋のかけひきはお手の物。そう想像していたのに、実像はまったく違う。

 落ち着かずに金時計を見上げたときだった。
 リーンゴーン。リーンゴーン……。
 鐘の音に続いてメロディが流れ、からくりが動き出した。天辺から星が姿を現し、男女の小さな人形が星の下でくるくるとダンスを踊る。
「花蔵さん」
「はい!」
 背後からの声に、楓子は勢いよく振り返る。

 と、黒いTシャツに白いシャツを羽織り、デニムをはいた葵が立っていた。
 地味だ。
 思った瞬間、ふふっと笑みがこぼれた。

「……なんで笑うんですか」
「いつも通りな感じだから」

「ダメでしたか?」
「違うの。安心した」
 楓子の答えに、彼は首をかしげる。
 彼女は金時計に目をやった。人形はダンスを終えて戻り、ただの時計へと戻っていく。
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