組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
芽生のすぐそば。先ほどまで京介がいた位置に椅子を置いて腰かけた女性――桐生百合香を見上げて、芽生は妙に落ち着かない。
芽生が熱を出してからずっと、芽生の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれていた京介は、千崎と連れ立って葛西組へ行ってしまった。
結果的に芽生の看病役として百合香が残されたのだけれど、元々面識があったわけではない。
下着や、相良組の面々からの話を通して存在くらいは知っていたけれど、実際に百合香と顔を合わせるのは初めて。
百合香の方も、京介や千崎伝手に芽生のことは知っていたようだけれど、芽生よりこちらのことに詳しいとすれば、芽生のスリーサイズを把握していることくらい。
(そう、スリーサイズ!)
同性とはいえ、彼女にそれを知られているんだと気がついた途端、恥ずかしさが込み上げてきた。
それに、〝《《あの千崎さんの》》彼女さん〟なんだと思ったら、妙にドキドキさせられる。
(京ちゃんは何を考えているのか割と分かりやすいタイプだけど……千崎さんは感情も何もかもセーブできる、精密機械みたいな印象だよ!?)
そんな千崎と恋仲になれるだなんて、それだけで凄い人だというフィルターが掛かりまくりなのだ。
「あ、あの……」
それで恐る恐る話しかけてしまった芽生だったのだけれど――。
「なぁに?」
百合香の物言いはとにかくとても穏やかで、ふわりと周りを包み込むような温かさが感じられて、芽生は(あーん、癒される!)と思った。そのついでのように(千崎さん、実は百合香さんの前でだけはデレたお顔とかなさるのかな?)と勝手な妄想をしてしまう。
だけどさすがにそれを初っ端にぶつけるのは良くないというのは、インフルエンザで判断能力の鈍った頭でも分かった。
「……どうして、私の看病を引き受けて下さったんですか?」
そもそも親しかったわけでも、面識があったわけでもない。
百合香にとって芽生は、馴染みの相手の先にいる、一介の客に過ぎなかっただろうに。
千崎が大切な彼女に、感染力の高い病気にかかっている芽生の付き添いを許可したことも驚きだけど、百合香自身が拒否すれば千崎はもちろん、京介も無理強いはしなかったはずなのだ。
芽生がそんな疑問とともに百合香をじっと見上げたら、
「えー? だって雄ちゃんがいっつも苦虫噛み潰したみたいな顔で貴女と相良さんのこと、話すんですもの! しかもあの相良さんが特別視してるってお相手よー? あのあと相良さんとお店に来てくれるかも? って期待してたのに来てくれないし……そうこうしてるうちにお店も燃えちゃったし……」
そこで一瞬だけ悲しそうな顔をした百合香だったけれど、次の瞬間にはニッコリ笑顔に塗り替えられていた。
「もう会えないのかな? って諦めてたところにチャンスが降ってきたのよ? そんなのイエスかハイか応の三択しかないでしょう!?」
クスクス笑われて、芽生も思わずつられて笑ってしまう。
「実は京ちゃんに、最初に百合香さんから見繕われた下着は私にはセクシー過ぎて似合わないから、新しいのを買いにもう一度百合香さんのところへ行くって言われたんです」
「えー? そうなのぉー? 私、絶対外してない自信満々で相良さん好みのエッチな下着を選んだはずだったのにー! 芽生ちゃんにはダメって言ったの? あの相良さんが? ヤダぁー。その話、もっと詳しく!」
百合香は芽生が想像していたよりはるかに底抜けに明るい女性で、芽生はいつしか彼女との会話を楽しんでいた。
***
「私、百合香さんのこと、勝手に髪の長い女性かな? って想像してました」
ひとしきり会話を楽しんで、芽生がショートカットに切りそろえられた百合香を見上げて微笑んだら、百合香が「ひょっとして似合わないかな?」と小首をかしげた。
芽生はそんな百合香にフルフルと首を横に振ると、
「まさか! こんな綺麗な人がいるんだ! ってうっとりしちゃうくらいです」
百合香の不安を全否定した。首を振ると頭がズキンと痛んだけれど、自分の不用意な発言で、目の前の美しい女性の表情を曇らせるのだけはイヤだった。
なのに――。
「実はね、前は芽生ちゃんみたいに腰まで髪の毛、あったのよ」
「えっ!?」
耳横にちょこっと残った髪の毛に触れながら百合香が淡く微笑むから、芽生はドキッとさせられる。
この感じ。
(きっと、百合香さんは髪の毛を切ることを余儀なくされる形でそうしたんだ)
女の直感でそう思った芽生である。
「ほら、これといっしょ」
手首に巻かれた包帯をそっと撫でる百合香を見て、芽生はハッとした。
「ほら、お店が焼けちゃったでしょう? あの時にね」
要するに、髪の毛も火に当てられて、短く切らざるを得ない状態になったということなんだろう。
「百合香さん、ごめんなさい。私……」
芽生は、百合香にそんなことを言わせたいわけじゃなかった。なのに、結果的に百合香にとって思い出したくないであろうことを話させてしまった。
「バカね、そんな悲しそうな顔しないの。ほら、笑って?」
芽生が申し訳なさに眉根を寄せたら、百合香がムニッと芽生の頬をつまんで、自身も何の憂いも感じていないかのようににっこり笑って見せる。
「実はね、シャンプーしてもすぐ髪の毛乾くし、案外いいかも? って思ってるのよ?」
クスクス笑いながら、
「ほら。あんなことでもない限り、なかなか伸ばした髪の毛をこんな風にバッサリ切るとか出来ないでしょう? 雄ちゃんも似合ってるって言ってくれるし、これはこれでいいかな? って今は結構気に入ってるの」
「百合香さん……」
芽生が熱を出してからずっと、芽生の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれていた京介は、千崎と連れ立って葛西組へ行ってしまった。
結果的に芽生の看病役として百合香が残されたのだけれど、元々面識があったわけではない。
下着や、相良組の面々からの話を通して存在くらいは知っていたけれど、実際に百合香と顔を合わせるのは初めて。
百合香の方も、京介や千崎伝手に芽生のことは知っていたようだけれど、芽生よりこちらのことに詳しいとすれば、芽生のスリーサイズを把握していることくらい。
(そう、スリーサイズ!)
同性とはいえ、彼女にそれを知られているんだと気がついた途端、恥ずかしさが込み上げてきた。
それに、〝《《あの千崎さんの》》彼女さん〟なんだと思ったら、妙にドキドキさせられる。
(京ちゃんは何を考えているのか割と分かりやすいタイプだけど……千崎さんは感情も何もかもセーブできる、精密機械みたいな印象だよ!?)
そんな千崎と恋仲になれるだなんて、それだけで凄い人だというフィルターが掛かりまくりなのだ。
「あ、あの……」
それで恐る恐る話しかけてしまった芽生だったのだけれど――。
「なぁに?」
百合香の物言いはとにかくとても穏やかで、ふわりと周りを包み込むような温かさが感じられて、芽生は(あーん、癒される!)と思った。そのついでのように(千崎さん、実は百合香さんの前でだけはデレたお顔とかなさるのかな?)と勝手な妄想をしてしまう。
だけどさすがにそれを初っ端にぶつけるのは良くないというのは、インフルエンザで判断能力の鈍った頭でも分かった。
「……どうして、私の看病を引き受けて下さったんですか?」
そもそも親しかったわけでも、面識があったわけでもない。
百合香にとって芽生は、馴染みの相手の先にいる、一介の客に過ぎなかっただろうに。
千崎が大切な彼女に、感染力の高い病気にかかっている芽生の付き添いを許可したことも驚きだけど、百合香自身が拒否すれば千崎はもちろん、京介も無理強いはしなかったはずなのだ。
芽生がそんな疑問とともに百合香をじっと見上げたら、
「えー? だって雄ちゃんがいっつも苦虫噛み潰したみたいな顔で貴女と相良さんのこと、話すんですもの! しかもあの相良さんが特別視してるってお相手よー? あのあと相良さんとお店に来てくれるかも? って期待してたのに来てくれないし……そうこうしてるうちにお店も燃えちゃったし……」
そこで一瞬だけ悲しそうな顔をした百合香だったけれど、次の瞬間にはニッコリ笑顔に塗り替えられていた。
「もう会えないのかな? って諦めてたところにチャンスが降ってきたのよ? そんなのイエスかハイか応の三択しかないでしょう!?」
クスクス笑われて、芽生も思わずつられて笑ってしまう。
「実は京ちゃんに、最初に百合香さんから見繕われた下着は私にはセクシー過ぎて似合わないから、新しいのを買いにもう一度百合香さんのところへ行くって言われたんです」
「えー? そうなのぉー? 私、絶対外してない自信満々で相良さん好みのエッチな下着を選んだはずだったのにー! 芽生ちゃんにはダメって言ったの? あの相良さんが? ヤダぁー。その話、もっと詳しく!」
百合香は芽生が想像していたよりはるかに底抜けに明るい女性で、芽生はいつしか彼女との会話を楽しんでいた。
***
「私、百合香さんのこと、勝手に髪の長い女性かな? って想像してました」
ひとしきり会話を楽しんで、芽生がショートカットに切りそろえられた百合香を見上げて微笑んだら、百合香が「ひょっとして似合わないかな?」と小首をかしげた。
芽生はそんな百合香にフルフルと首を横に振ると、
「まさか! こんな綺麗な人がいるんだ! ってうっとりしちゃうくらいです」
百合香の不安を全否定した。首を振ると頭がズキンと痛んだけれど、自分の不用意な発言で、目の前の美しい女性の表情を曇らせるのだけはイヤだった。
なのに――。
「実はね、前は芽生ちゃんみたいに腰まで髪の毛、あったのよ」
「えっ!?」
耳横にちょこっと残った髪の毛に触れながら百合香が淡く微笑むから、芽生はドキッとさせられる。
この感じ。
(きっと、百合香さんは髪の毛を切ることを余儀なくされる形でそうしたんだ)
女の直感でそう思った芽生である。
「ほら、これといっしょ」
手首に巻かれた包帯をそっと撫でる百合香を見て、芽生はハッとした。
「ほら、お店が焼けちゃったでしょう? あの時にね」
要するに、髪の毛も火に当てられて、短く切らざるを得ない状態になったということなんだろう。
「百合香さん、ごめんなさい。私……」
芽生は、百合香にそんなことを言わせたいわけじゃなかった。なのに、結果的に百合香にとって思い出したくないであろうことを話させてしまった。
「バカね、そんな悲しそうな顔しないの。ほら、笑って?」
芽生が申し訳なさに眉根を寄せたら、百合香がムニッと芽生の頬をつまんで、自身も何の憂いも感じていないかのようににっこり笑って見せる。
「実はね、シャンプーしてもすぐ髪の毛乾くし、案外いいかも? って思ってるのよ?」
クスクス笑いながら、
「ほら。あんなことでもない限り、なかなか伸ばした髪の毛をこんな風にバッサリ切るとか出来ないでしょう? 雄ちゃんも似合ってるって言ってくれるし、これはこれでいいかな? って今は結構気に入ってるの」
「百合香さん……」