組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
36.こたえの手前
芽生が京介とともに帰宅すると、「お帰りなさい。カシラ、神田さん」と佐山がリビングの扉を開けて出迎えてくれた。
「あっ! こら、待て!」
その瞬間、殿様がチャンス到来! とばかりにトトトッとドアの隙間を抜けて駆け出て来て、二人の足元へすり付いた。
佐山の静止の声なんてどこ吹く風。
京介と芽生の間を8の字を描くようにぐるぐると回り続ける殿様に、靴を脱げなくて芽生が弱り顔をしたら、京介が殿様をスッと抱き上げた。
「こら、殿様。いくらなんでも歓迎がしつこすぎるわ」
迷惑気に告げる言葉とは裏腹。殿様の喉下をくすぐるように撫でる京介の人差し指はどこまでも優しい。
芽生はそんな京介の様子を見つめながら、(彼は子供が出来たときもきっと、こんな風に可愛がってくれるんだろうな?)と無意識に考えて、そうするための行為に思い至ってぶわりと頬が熱を持つ。
ギクシャクとした足取りで靴を脱いで玄関の隅っこへ寄せていると、京介が「どうした、芽生。動きが変だぞ? 疲れたのか?」と眉根を寄せた。
京介は芽生が病み上がりなことを未だにとても心配しているらしく、芽生がちょっとでもおかしな素振りを見せると過保護モード全開になる。
今回も玄関先で所在なく立ち尽くしたままでいた佐山へ殿様を手渡すなり、芽生の額へ手を伸ばそうとしてきた。芽生は頬を中心に身体が上気して熱を持っているのを悟られたくなくて、慌てて京介から距離を取ると、フルフルと首を横に振った。
「大丈夫、どこもしんどくないっ。ちょっと色々想像しちゃって……」
馬鹿正直に言って、(しまった!)と御思ったけれど後の祭り。
「想像って……何を――?」
当然そう問い掛けられて言葉に詰まってしまう。
玄関先、大の大人三人+一匹でそんなやり取りをしていたら、チャイムが鳴った。
そのお陰で京介からの追求から逃れられてホッとした芽生である。
聖夜 皆でリビングへ戻って、家主である京介がインターフォンへ応答すると、モニター画面に二人の男性が映し出された。
どうやら相良組の面々より先に、特別ゲストが来たらしい。
***
芽生の誕生日は十二月二十五日だ。
日本では二十四日の方を有難がる風潮があるが、いずれにしてもその付近が恋人同士の〝大切な時期〟であることに変わりはない。
(ある意味ズレてよかったのか?)
なんてことを京介が思ってしまったのは、やはり芽生にも関係のあるこの二人に、彼女の誕生日を祝って欲しかったからに他ならない。
「わざわざ年末のクソ忙しい時期に呼び出して悪かったな」
玄関先で社交辞令。そんな言葉を述べた京介に、
「ほぉー。所帯持つとなるといきなり常識人になるんだな、相良。私相手でもそういうセリフが吐けるようになったとは感心だ」
幼い頃からの悪友である長谷川将継がクスクス笑う。
「ちょっ、将継さんっ」
慌ててそんな恋人をたしなめたのは、将継のすぐ横に立っていた朧木静月だ。
「きょ、今日はお招きいただき有難うございます!」
言って、まるで恋人の不祥事ごと水に流して欲しいみたいにガバリと頭を下げる様子が何とも静月らしくて、京介は将継への嫌味も忘れて思わず笑ってしまった。
「ま、玄関先で立ち話も何だ。中、入ろうか」
京介に促されて、将継と静月が靴を脱いで、京介が言うまま。靴を隣の扉の向こう――シューズクロークへ避けていたら、またしてもチャイムが鳴った。
***
「神田さん、すんません。今、ちょっと手が離せないんで出てもらえますか?」
京介は玄関先で将継たちを出迎えている。
必然的に、今リビングには佐山と芽生と殿様しかいない。
キッチンで何やら作業をしていて応じられないと佐山から来客への対応を頼まれた芽生は、殿様を床へそっと下ろしてインターフォンの通話スイッチを押した。
それに連動してモニターがパッと明るくなって、来訪者の姿を映し出す。
「千崎です。あと、連れが一人……」
画面には千崎と並び立つ百合香の姿があった。連れ、とは彼女のことだろう。
百合香と会うのは京介たちが不在だった時、看病に来てもらって以来。
芽生は、――お小言魔人の千崎はともかく――百合香とまた話せるのが嬉しくて、「すぐ開けます!」という声とともに開錠ボタンを押した。これで、一時的にエントランスのロックが解除されて外の二人も中へ入って来られるはずだ。
「千崎さんっすか」
流しの水を止めて佐山が問い掛けてくるから、芽生は「うん」と答えてから、足元にすり寄ってくる殿様をそっと抱き上げた。
「……あと、百合香さんも一緒」
芽生が何気なく告げたら、佐山が一瞬だけ眉根を寄せたのが分かった。
「ブンブン?」
京介がいないのをいいことにいつも通り。呼び慣れたあだ名で呼びかけた芽生を、佐山が「カシラに叱られますよ?」とたしなめる。
「あっ! こら、待て!」
その瞬間、殿様がチャンス到来! とばかりにトトトッとドアの隙間を抜けて駆け出て来て、二人の足元へすり付いた。
佐山の静止の声なんてどこ吹く風。
京介と芽生の間を8の字を描くようにぐるぐると回り続ける殿様に、靴を脱げなくて芽生が弱り顔をしたら、京介が殿様をスッと抱き上げた。
「こら、殿様。いくらなんでも歓迎がしつこすぎるわ」
迷惑気に告げる言葉とは裏腹。殿様の喉下をくすぐるように撫でる京介の人差し指はどこまでも優しい。
芽生はそんな京介の様子を見つめながら、(彼は子供が出来たときもきっと、こんな風に可愛がってくれるんだろうな?)と無意識に考えて、そうするための行為に思い至ってぶわりと頬が熱を持つ。
ギクシャクとした足取りで靴を脱いで玄関の隅っこへ寄せていると、京介が「どうした、芽生。動きが変だぞ? 疲れたのか?」と眉根を寄せた。
京介は芽生が病み上がりなことを未だにとても心配しているらしく、芽生がちょっとでもおかしな素振りを見せると過保護モード全開になる。
今回も玄関先で所在なく立ち尽くしたままでいた佐山へ殿様を手渡すなり、芽生の額へ手を伸ばそうとしてきた。芽生は頬を中心に身体が上気して熱を持っているのを悟られたくなくて、慌てて京介から距離を取ると、フルフルと首を横に振った。
「大丈夫、どこもしんどくないっ。ちょっと色々想像しちゃって……」
馬鹿正直に言って、(しまった!)と御思ったけれど後の祭り。
「想像って……何を――?」
当然そう問い掛けられて言葉に詰まってしまう。
玄関先、大の大人三人+一匹でそんなやり取りをしていたら、チャイムが鳴った。
そのお陰で京介からの追求から逃れられてホッとした芽生である。
聖夜 皆でリビングへ戻って、家主である京介がインターフォンへ応答すると、モニター画面に二人の男性が映し出された。
どうやら相良組の面々より先に、特別ゲストが来たらしい。
***
芽生の誕生日は十二月二十五日だ。
日本では二十四日の方を有難がる風潮があるが、いずれにしてもその付近が恋人同士の〝大切な時期〟であることに変わりはない。
(ある意味ズレてよかったのか?)
なんてことを京介が思ってしまったのは、やはり芽生にも関係のあるこの二人に、彼女の誕生日を祝って欲しかったからに他ならない。
「わざわざ年末のクソ忙しい時期に呼び出して悪かったな」
玄関先で社交辞令。そんな言葉を述べた京介に、
「ほぉー。所帯持つとなるといきなり常識人になるんだな、相良。私相手でもそういうセリフが吐けるようになったとは感心だ」
幼い頃からの悪友である長谷川将継がクスクス笑う。
「ちょっ、将継さんっ」
慌ててそんな恋人をたしなめたのは、将継のすぐ横に立っていた朧木静月だ。
「きょ、今日はお招きいただき有難うございます!」
言って、まるで恋人の不祥事ごと水に流して欲しいみたいにガバリと頭を下げる様子が何とも静月らしくて、京介は将継への嫌味も忘れて思わず笑ってしまった。
「ま、玄関先で立ち話も何だ。中、入ろうか」
京介に促されて、将継と静月が靴を脱いで、京介が言うまま。靴を隣の扉の向こう――シューズクロークへ避けていたら、またしてもチャイムが鳴った。
***
「神田さん、すんません。今、ちょっと手が離せないんで出てもらえますか?」
京介は玄関先で将継たちを出迎えている。
必然的に、今リビングには佐山と芽生と殿様しかいない。
キッチンで何やら作業をしていて応じられないと佐山から来客への対応を頼まれた芽生は、殿様を床へそっと下ろしてインターフォンの通話スイッチを押した。
それに連動してモニターがパッと明るくなって、来訪者の姿を映し出す。
「千崎です。あと、連れが一人……」
画面には千崎と並び立つ百合香の姿があった。連れ、とは彼女のことだろう。
百合香と会うのは京介たちが不在だった時、看病に来てもらって以来。
芽生は、――お小言魔人の千崎はともかく――百合香とまた話せるのが嬉しくて、「すぐ開けます!」という声とともに開錠ボタンを押した。これで、一時的にエントランスのロックが解除されて外の二人も中へ入って来られるはずだ。
「千崎さんっすか」
流しの水を止めて佐山が問い掛けてくるから、芽生は「うん」と答えてから、足元にすり寄ってくる殿様をそっと抱き上げた。
「……あと、百合香さんも一緒」
芽生が何気なく告げたら、佐山が一瞬だけ眉根を寄せたのが分かった。
「ブンブン?」
京介がいないのをいいことにいつも通り。呼び慣れたあだ名で呼びかけた芽生を、佐山が「カシラに叱られますよ?」とたしなめる。